日本肝臓学会指導医
TF先生
(会員方には紹介可)
慢性肝炎は進行する病気でその流れは主に次のように進んでいきます。
先ず肝炎ウイルスやアルコ−ルなどが原因で急性肝炎が発症します。その後慢性期に移ると徐々に肝臓の細胞が破壊されてきます。破壊された後に線維がたまり、徐々に進行し肝硬変となります。肝硬変になるとかなり高い確率で肝癌が発生してきます。
このように肝臓病は急性肝炎→慢性肝炎→肝硬変(代償期・非代償期)→肝癌(慢性肝炎から起こることも有ります・肝細胞癌)というように段階的に進行する病気であり肝硬変に至るまでには早くて10〜30年という長い年月がかかります。
肝炎の治療はインタ−フェロンなどの治療が今日積極的に行われるようになり肝炎ウイルスを除去することで病態の進行を止めることが可能になりました。しかし、残念ながらこれらの治療で効果がなく肝硬変へと進行してしまう患者さんも少なくありません。つまり肝臓病の終末像こそが肝硬変と言えると思います。
肝硬変の原因
肝硬変は多くの合併症を併発し死に到るケ−スもあります。肝硬変の生存率は肝炎発症の原因により異なりますが、C型肝炎ウイルスが原因の肝硬変患者の場合は大体
5年目85%、 10年目60%、 15年目30% と言われています。
これらの肝硬変患者の死亡原因は、肝癌・肝不全・消化管出血でした。
これらの死亡原因は1970年代には1:1:1という比率でした。しかし近年内視鏡を使った食道静脈瘤硬化療法の技術が進歩し消化管出血の頻度も少なくなりました。また特殊アミノ酸製剤、利尿剤の開発により肝不全の症状である肝性脳症や浮腫・腹水も改善されてきました。その結果今日の肝硬変における死亡原因は肝癌が50〜60%を占めるようになりました。
これらのことから肝臓病の生存率を高めるためには肝硬変から肝癌に到る段階を遅らせことが非常に重要であるといえます。
肝硬変と3大死因
発癌の可能性を調べるためにAFP、PIVKAUという血液検査があります。この値が高くなると肝細胞癌になっているいる可能性があります。そのため肝硬変の患者さんを定期的に診察しこれらの血液検査に加え超音波検査、CT検査などを行うことで発癌の早期発見を行います。
発癌予防を目的とした治療にインタ−フェロン、肝庇護剤等の薬剤を投与する方法があります。これらの薬を投与することによりGOT、GPTの値を低値に保ち肝細胞癌を出にく
くするというものです。しかしながら健康保険の適応や一定期間注射をしなければならないといった点で治療を行える病院は限られてしまい、全ての患者さんに治療をすることができません。
一方、患者さんの検査の値により発癌率が異なるという報告もあります。これは肝硬変の患者さんが通常行っている血液検査の中にある項目で、アルブミン、血小板というものの値です。このアルブミ、血小板は血液の成分であり、これが低下してくるに従い発癌率が高くなるという報告です。つまりこれらの値を下げない治療も重要と言えます。
肝癌の原因
肝硬変になると前述したようにアルブミンなどの血液成分に異常が現れます。それに伴ない様々な症状が現れてきます。たとえばアルブミンが低下すると浮腫、腹水が、血小板が著明に低下すると出血が止まりにくくなったりします。
さらに肝臓の機能が低下することで体を構成している蛋白質(筋肉)をつくることができなくなり、徐々に体重が減少してきます。血液異常の特徴として蛋白質の成分であるアミノ酸のバランスが正常の人と比べて崩れてしま事もあります。
慢性肝炎と肝硬変の鑑別
慢性肝炎 | 肝硬変 | ||
臨床所見 | |||
1.肝種 | 両葉腫大 | 右葉萎縮、左葉種大 | |
2.脾種 | 稀 | 触知 | |
3.クモ状血管 | (±) | (+) | |
4.手掌紅斑 | (±) | (+) | |
5.女性化乳房 | (−) | (+) | |
6.腹水 | (−) | (+) | |
消化管内視鏡検査 | |||
1.食道静脈瘤 | (−) | (+) | |
2.胃うっ血症 | (−) | (+) | |
超音波検査 | |||
1.肝表面 | 正常〜不整 | 不整〜波状 | |
2.肝実質パタ−ン | 正常〜不均一 | 不均質〜結節状 | |
臨床検査 | 正常値 | ||
1.血小板数 | 15万〜36万 | 正常 | 減少 |
2.ビリルビン | 0.2〜1.0mg/dl | 正常 | 軽度増加の持続 |
3.アルブミン | 3.8〜5.3mg/dl | 正常 | 低下 |
4.コリンエステラ−ゼ | 0.70〜1.25ΔpH | 正常 | 低下 |
5.プロトロンビン | 80〜120% | 正常 | 低下 |
6.GOT/GPT | GOT<GPT | GOT>GPT | |
7.総胆汁酸 | 10μmol/l以下 | 正常〜軽度増加 | 増加 |
8.ICG停滞率 | 0〜10%/15min | 正常〜軽度上昇 | 上昇 |
繊維化マ−カ− | |||
1.W型コラ−ゲン | 6.0ng/ml以下 | 正常〜軽度増加 | 増加 |
2.ヒアルロン酸 | 正常〜軽度増加 | 増加 |
蛋白質は約20種類のアミノ酸から構成されています。アミノ酸を大きく分類すると必須アミノ酸と非必須アミノ酸に分けられます。非必須アミノ酸は体で作ることができるアミノ酸であるのに対し必須アミノ酸は食物から補給しなければならないものです。通常健常人の血液中の必須アミノ酸と非必須アミノ酸のバランスは1:1です。その必須アミノ酸は現在9種類とされていますが肝硬変が進行するにつれて3種類の必須アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)いわゆる分岐鎖アミノ酸(BCAA)が減少してきます。一方非必須アミノ酸の中の芳香族アミノ酸(AAA:フェニ−ルアラニン、チロシン)は増加することがわかっています。この両者の比(BCAA/AAA)をフィッシャ−比といい肝硬変の進行度を確認する時に検査します。
代償性肝硬変 | 非代償性肝硬変 | |
血清アルブミン値 | 3.6g/dl以上 | 3.5g/dl以下 |
フィッシャ− | 2.1以上 | 2.0以下 |
過去の研究から分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)が不足し芳香族アミノ酸(フェニ−ルアラニン、チロシン)の増加することで肝性脳症が発症するといわれています。 肝機能低下によりエネルギ−源である糖質が低下しその変わりに分岐鎖アミノ酸がエネルギ−源として利用されます。一方筋肉は有害物質であるアンモニアを処理する働きがあります。しかし分岐鎖アミノ酸がエネルギ−として使われてしまうため蛋白質をつくれづ筋肉量が減少してしまいます。そこで肝性脳症を覚醒するために分岐鎖アミノ酸の注射をおこないます。その後、脳症再発の防止と栄養状態を改善(血清アルブミン上昇等)するために分岐鎖アミノ酸を多く含んだ総合的な栄養剤(肝不全用成分栄養剤)を投与します。
最近、分岐鎖アミノ酸の単剤(リ−バクト顆粒)が多くの肝硬変患者さんに使用されるようになりました。適応となるのは注射剤、成分栄養剤を使用するような進行した状態ではなく、肝硬変という診断を受けたばかりで外来通院しており食事も通常にされている初期の方が対象となります。目的は低アルブミン血症及び肝硬変で現れるこむら返り、不眠症、全身倦怠感等の症状を改善する事、つまりQOLを改善する事です。
分岐鎖アミノ酸含有製剤と投与目的
リ−バクト顆粒 | 分岐鎖アミノ酸単剤 | 低アルブミン血症、全身倦怠感改善等 |
ヘパンED/アミノレバンEN | 肝不全用成分栄養剤 | 肝性脳症、低栄養状態改善 |
モリヘパミン/アミノレバン | 肝不全用アミノ酸注射剤 | 肝性脳症改善 |
肝硬変の症状を改善する上で分岐鎖アミノ酸を多く含む製剤が今日多く使用されています。これらは今のところ、合併症(肝性脳症、低アルブミン血症の改善)という直面している症状の改善を目的として使用されています。合併症が発症するということは、病体がかなり進行した状態であることは前述からおわかりいただけると思います。病態があまり進行すると薬の効果も低くなります。ですから症状が出る前からの投与が重要かもしれません。
まだ、データ−としてはありませんが、今日の様々な知見から
肝硬変の進行を遅らせる(進展防止)、肝再生、発癌防止という効果の可能性もこの製剤に期待されています。
肝硬変における栄養状態と分岐鎖アミノ酸製剤投与の意義は理解いただけたと思います。最後にみなさんに理解して頂きたいことは日常の食事の重要性です。いくらこれらの製剤を服用しても日常の食事を疎かにしては何の意味も無くなってしまいます。また、肝硬変の代償期と非代償期は摂取する食事内容も異なります。主治医の先生と相談していただき「自分が現在どの状態にいるのか」を確認し指導された食事を摂ることが非常に重要です。