アデラビン9号(アデラビン)


はじめに

アデラビン9号は1974年(昭和49年)より発売されている注射剤で、炎症によって失われた肝臓機能を高めることにより、肝臓の働きを改善する薬剤です。肝臓の炎症の程度を示すGOT、GPTなどの検査値のみならず、本来肝臓が持っています蛋白合成能力(アルブミン、コリンエステラーゼなどの検査値)や肝血流量を示すICG15分値の改善も期待できる薬剤です。

薬理作用

アデラビンは肝臓から抽出した肝臓エキスと、活性型ビタミンB2であるFAD(アデニンフラビンジヌクレオチド)を配合した注射剤です。肝臓エキスには多くの核酸成分(蛋白を合成する際に必要な分子)が含まれ、蛋白合成の促進作用(図1)が認められています。また、肝臓の血流量を増やす作用(図2左)が認められています。ビタミンB2は、体内のエネルギー産生に深く関わっている補酵素で、欠乏によりヒトでは口唇、口腔内粘膜等の異常を起こし、口角炎、口唇粘膜剥離、発赤、舌炎、鼻炎、咽喉頭炎、浮腫、潰瘍、その他の皮膚炎、視力減退、脂漏性皮膚炎などを起こします。肝臓では肝組織内の酸素分圧を増加させる作用(図2右)を持っています。

図1.肝細胞の蛋白合成に対する作用

三谷隆彦:三和化学研究所社内資料誌

肝組織血流量                      酸素分圧

2.肝組織血液量・肝組織酸素分圧に対する作用

越智次郎他:日本消化器病学会雑誌 83(2):180,1986

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臨床効果

アデラビン9号の適応症を表1に示します。

表1 適応症


効能・効果
● 慢性肝疾患における肝機能の改善
● 下記疾患のうちビタミンB2の欠乏又は代謝障害が関与すると推定される場合
  湿疹・皮膚炎群、口唇炎・口角炎・口内炎、びまん性表層角膜炎
● ビタミンB2の需要が増大し、食事からの摂取が不十分な際の補給(消耗性疾患、妊産婦、授乳婦等)

用法・用量
  通常成人1日1〜2mLを1〜2回に分けて皮下、筋肉内又は静脈内投与する。
  なお、年齢、症状により適宜増減する。



アデラビン9号にはビタミンB2が含まれていますので、慢性肝疾患のほかにもビタミン補給の目的で処方されています。特に消化器の手術後の食事が出来ない期間にビタミン補給並びに手術後の肝機能検査値異常の改善に使用されることもあります。

アデラビンの慢性肝疾患に対する臨床効果は1980年に慢性肝炎、1983年に肝硬変症患者を対象に二重盲検比較試験法にて、その有効性が確認されています。改善した肝機能検査項目として、慢性肝炎では図3に示すようにGOT、GPTに加え、肝臓の組織血流量を示すICG15分値の改善も認められました。また、肝硬変症では蛋白代謝の指標であるCh-E(コリンエステラーゼ)の改善も認められるなど、アデラビンはGOT、GPTばかりではなく、肝臓の機能を改善することが認められています。

慢性肝炎
   対  象:肝生検により診断された入院加療中の慢性肝炎患者215例
         アデラビン9号:110例、偽薬:105例
   投与方法:1日1回2mLを5%ブトウ糖液250mLまたは500mLとともに
         4週間連日点滴注射。


                 群間比較で有意差が認められた検査項目

3.肝機能検査値の改善率

平山千里他:医学のあゆみ,114(4):225,1980.

最近の話題

最近、アデラビン9号にインターフェロン(IFN)の抗ウイルス効果を増強する作用するとの報告があります。ヘルペスウイルスに感染したマウスの生存率をIFN単独投与グループよりアデラビンを併用投与したグループの方が高めたと報告されています(図4)。
また、ヒトに対する影響についても検討されています。C型慢性肝炎患者に、IFN単独投与、IFNとアデラビンの筋肉内投与、IFNとアデラビンの静脈内点滴投与の3つのグループで抗ウイルス効果を比較し、IFNとアデラビン静脈内点滴投与のグループがもっとも強い抗ウイルス効果を示しました(図5)。
治療に応用した試験としては、1998年に行われた肝臓学会大会にて報告されました。対象はC型慢性肝炎患者155例(IFN-β単独群91例、IFN-β+アデラビン9号64例)、6週間の連日投与を行い、C型肝炎ウイルス量と肝機能検査値で効果を判定しました。その結果、IFN-βを単独投与したグループに比べアデラビンを併用したグループのほうがウイルス学的にも肝機能検査的にも改善率が高かったことが認められました(表2、3)。

観 察 日 数

図4.HVS(ヘルペスウイルスの一種)感染マウスの生存率

Shoji Yokochi et al.:Arzneim.-Forsch./Drug Res.,47(U):968,1997.

方  法:アデラビン9号2mLを5日間連日投与後、IFN-α600万IUを1度だけ筋肉内投与す
     る。48時間後のウイルス量を観察した。
検討方法:アデラビン9号非投与群(10例)アデラビン9号筋肉内投与群(8例)、アデラビン
     9号点滴静脈内投与群(9例)

図5.ヒトに対するウイルス量への影響

Hidetdugu Saito et al.:Keio J.Med.,45(1):48,1996.



方  法:C型慢性肝炎患者にアデラビン9号2mL(点滴投与)とIFN-β 600万IU(静脈内
     投与)を6週間連日投与した。対象はIFN-β 600万IU(静脈内投与)の6週間連日
     単独投与とした。
検討方法:アデラビン9号+IFN-β併用投与群(64例)、IFN-β単独投与(91例)
結  果:

        表2.HCV-RNA陰性化率

投与終了時 投与終了6カ月後
アデラビン9号+IFN-β 85.7% 32.6%
IFN-β単独 62.7% 17.3%


        表3.肝機能改善率

投与終了6カ月後
アデラビン9号+IFN-β 51.9%
IFN-β単独 39.5%

海老沼浩利他:肝臓,39(sup3):75,1998.


使用上の留意点

アデラビン9号を静脈内投与する際、注射速度が速いと「胸部不快感」「血圧低下」を起こすことがあります。この原因は、アデラビンに含まれているビタミンB2が持っている血管拡張作用によって起きる作用であるとされています。血管拡張作用により一過性の血圧低下が現れ、その血圧低下を補おうとして心臓が激しく拍動することにより胸部不快感の副作用が現れます。この副作用は点滴用の補液なので希釈し、ゆっくり投与することにより回避できます。しかしながらアデラビンを投与中に「胸のむかむか感」などが現れた場合は、すぐに医師や看護婦に伝え指示に従って下さい。


おわりに

 慢性肝炎の原因は大半が肝炎ウイルス(HBV、HCV)によるものだと判り、肝炎の原因療法としてIFNなどの抗ウイルス作用を有する薬剤の投与が定着しています。しかし、その抗ウイルス効果が一過性で、投与中止に伴ってその効果が消失する例は少なくなく、より有効なIFN療法を確立するために投与量、併用薬剤の選択などについて検討されています。アデラビン9号はウイルス排除を期待する原因療法剤ではなく、いわゆる肝庇護剤ないしは肝機能改善剤ですが、強力ミノファーゲンCや小柴胡湯と同様に昔から多くの患者に使われ、有効性や安全性について十分に検討されている薬剤であります。またさらに、近年ではIFNとの併用療法についても研究され「古くて新しいクスリ」として慢性肝炎の薬物療法に貢献できる薬剤です。


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