肝性脳症と血漿遊離アミノ酸インバランス(1)

 

  正常人では、血漿中の各アミノ酸の比率がほぼ一定となっています。肝硬変ではアミノ酸代謝が正常に行われず、このアミノ酸バランスがくずれます。Fischerらが肝性脳症の患者にBCAAを多く含むアミノ酸製剤を投与して覚醒作用を報告して以来、肝硬変患者の血漿アミノ酸濃度が注目されるようになりました。肝硬変患者は肝臓でのアミノ酸代謝が減少し相対的に骨格筋でのアミノ酸代謝が亢進するため、Ile,Leu,ValなどBCAAが減少します。逆に骨格筋では代謝されないPhe,TyrなどのAAAが過剰になります。その結果BCAAIle,+Leu+Val/AAAPhe+Tyr)のモル比(=Fischer比)が低下します。

 

  肝性脳症と血漿遊離アミノ酸インバランス(2)

 

  一方、AAAが血液脳関門(BBB)を通過して脳内に移行する時、BCAAが競合的に拮抗することが知られています。つまり肝硬変で血漿中のBCAA濃度が減少するほどAAAは脳内に移行しやすくなります。したがって肝硬変患者では血漿中のBCAA濃度の減少に伴い脳内のAAA濃度が増加します。脳内のAAA濃度の増加はNE(ノルエピネフリン)、DA(ドーパミン)、5HT(セロトニン)などに神経伝達物質、オクトパミン、5−ヒドロキシルインドール酢酸などの偽性神経伝達物質の生成を亢進します。これらの精神神経症状、睡眠などに関与する脳内アミンの代謝異常が肝性脳症の一因と考えられています。

 

肝性脳症の誘因(1)

   

   肝性脳症は次のような事が誘因になるため、これらの誘因をできるだけ避けることが必要です。

   1.食事蛋白の過剰摂取:アンモニアやアミンの産生が増加します。

   2.便秘:食事蛋白、アミノ酸と腸内細菌叢との接触時間が増加する為、アンモニ 

    アの産生が増加し、有毒性アミンの生成と吸収が増加します。また排便時の力

    みによって門脈圧を亢進、食道静脈瘤の破裂をきたすことがあります。

   3.利尿剤の投与、嘔吐、下痢:低カリウム血症を誘発します。低カリウム血症は 

    アルカローシスを招き、アンモニアを増加させます。

   4.鎮静剤、鎮痛剤、精神安定剤の投与:肝性脳症の既往をもつ肝硬変患者はこ 
    れらの薬に対する感受性が亢進しています

 

肝性脳症の誘因(2)

 

   5.低クロル性アルカローシス:長期の食塩摂取の制限で起こります。

   6.消化管出血:食道静脈瘤の破裂などによって消化管内に出た血液は蛋白源と

     してアンモニア、有毒性アミンなどを生成します。

   7.感染(肺、尿道、腹膜炎):組織の崩壊により、窒素化合物が増加します。

   8.手術:手術侵襲により肝機能が低下し、糖代謝などの合併により栄養管理が

     困難になります。また輸血用の保存血液中にはアンモニアが多く含まれてい

     ます。