新しい高アンモニア血症の治療薬

はじめに

前回、肝性脳症についてお話をしました。今回、その原因となる高アンモニア血症の新しい治療法についてご説明したいと思います。

ラクツロースとラクチトール

現在、高アンモニア血症を伴う肝性脳症の治療薬としてラクツロース製剤が従来より 第一選択剤として広く使用されています。ラクツロースは1930年E.M.Montgomeryらにより乳糖からつくられた物質でガラクトースとフルクトースが結合した構造をもつ合成二糖類ですBircherらにより 肝性脳症に対する治療薬として1966年に紹介されました。
一方、最近ではラクチトール製剤という新しい合成二糖類も日本で使用されはじめました。ラクチトールも乳糖から合成されますが、これはガラクトースとソルビ トールが結合した構造をもちます。


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     ラクツロース                   ラクチトール



ラクチトールという物質自体は1920年に既に合成されていましたが、医薬品としての開発は1982年にBircherらが肝性脳症患者に対して使用したのがその最初です。そのなかで、ラクチトールはラクツロースと同様に病態を改善することが可能な物質であることと、ラクツロースに比べ甘味が弱いために服用時の嫌悪感や嘔気が発現しないことなどが報告されています。その後、1985年にスイスで発売されて以来、世界60カ国余りで使用されています。

作用機序

下図はラクチトールの血中アンモニア低下作用の機序を示しています。ラクチトールを服用しますと、胃・小腸で吸収されることなく大腸に達し、腸内細菌により、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの脂肪酸に分解されます。その結果、腸内のpHが低下しアンモニアが吸収されにくいイオン型となります。更に、pH低下により腸内細菌叢が変化しアンモニア産生菌の減少、乳酸産生菌の増殖が促進することに伴いアンモニアの産生が抑制されるものと思われます。また、ラクチトールが腸管に到達後、浸透圧が亢進し、腸管輸送能が亢進 することにより、アンモニアを含む腸管内容物の排泄が促進されます。以上がラクチトールの主な作用機序です。ラクツロース製剤の作用も基本的に同じです。



おわりに

ラクチトールは下痢が少ない点、甘みが少なく飲みやすい点、スティック包装の粉末製剤で携帯に便利な点、下痢などの副作用が比較的少ない点などで高アンモニア血症治療の新しい薬剤として今後が期待されています。


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