< 小柴胡湯について >

 

 最近新聞などで、小柴胡湯を主とした漢方製剤の副作用についての報道が多くなされております.

このため漢方製剤、特に小柴胡湯についての質問が最近多く寄せられてきております.そこで、今回は小柴胡湯について特に述べさせていただきます.

 いつもお話しておりますように、本来慢性肝炎だけでは生命に別状もありませんし、自覚症状もほとんどなく、日常生活にも何等支障はありません.しかし将来、肝硬変や肝癌ヘの進行を予防したり、遅らせたりする為に治療が必要です.様々な薬がこのために使用されていますが、それぞれのメリットとデメリット、治療の必要性とその効果、副作用などについて十分理解された上で、その治療を受けるかどうかを決める必要があります.

慢性肝炎、肝硬変の治療には主に、ウィルスを消失させる為にインターフェロンが、炎症を抑え病気の進行を抑える為に強力ネオミノファーゲンCの静注等がなされております.一方、経口剤では、これら2者に比べて有力な治療法はあまりありません.しかしながら、静注に通えない方や静注をする程病気のひどくない方に対しては、内服治療を行ってきております.この内服治療の一つに小柴胡湯があります.

 小柴胡湯の効果

−小柴胡湯は何を目的として内服するか−

1:肝臓の炎症を抑えて、(GOT、GPTを低下させて)病気の進行を遅らせる(慢性肝炎より肝硬変ヘ、軽い肝硬変より進んだ肝硬変ヘの進行を遅らせる.).

2:将来の発癌を予防する.

この2つの効果をねらって内服してもらっております.

 小柴胡湯はこの様な効果が内服で頻繁な通院なしに期待できる点で有用な薬だと思われます.

小柴胡湯の副作用

1:偽アルドステロン症といって、血圧が上がったり、体の塩分バランスの変化をきたし、ひどくなると脱力感などが出ることがあります.しかしながら定期的な検査を行い、必要な場合にはアルダクトン(利尿剤)の内服等をすることでほとんど問題になることはありません.

 塩分バランスを悪くする利尿剤やグリチルリチン製剤の併用では、この副作用が起きやすいことが知られています.

2:間質性肺炎といって、肺炎の一種が起こることがあります.重大な副作用なので、早期発見、早期治療が必要です.もちろん、直ちに小柴胡湯は中止してください.

3:その他の副作用として、皮疹や食欲不振等が起こることがあります.

小柴胡湯の有用性

上記の効果と副作用を考えて、内服をするどうかを決めるべきです.効果的には、炎症を抑える働きや、肝癌の発生率の低下が証明されています.副作用としては、偽アルドステロン症はしっかりと検査をし、対策をこうじれば問題にはなりません.肺線維症は重大な副作用ですが、その発生頻度は2〜3万人に1人起きるくらいの極めて低頻度のものです.以上のことを考えあわせると、他に有用な治療法が選択できないのなら、内服する価値は十分あるとおもいます.

 

< 小柴胡湯 Q&A >

 

Q:55歳 男性 会社員 

 C型肝炎で、インターフェロン治療を行いましたが効果はなく、GOT 60、GPT 70くらいが続いており、肝臓の炎症がとれるからということで、小柴胡湯の投与を受けました.慢性肝炎にはよい薬がないといわれておりますが、いかがなものでしょうか.

A:肝臓の発症の強さをみる為に、GOT,GPTを測定しております.これが低下するということは、肝臓の内での炎症が抑えられていないということです.薬の効果をみる上で、最もシビアな検討法である二重盲検試験(小柴胡湯と効果のない薬(プラセボ)の2種の薬を用意しておき、薬を出す医者も薬を内服する患者さんもどちらの薬を飲んでいるかわからないまま治療を行い、治療が終わった後で小柴胡湯を飲んでいた人と、プラセボを飲んでいた人たちについて効果を比較するという検査)のデータでもGPTは、小柴胡湯を内服すると治療前値の約20%低下しますが(GPT100の人は80くらいまで低下する).プラセボも内服した人では、10%も低下しませんでした.これらの検討より、小柴胡湯を飲むとGPTが低下しやすいことが証明されています.

 

Q:47歳 女性 主婦

C型肝炎で以前より、小柴胡湯を飲みつづけております.最近、間質性肺炎という重大な副作用があると新聞でみましたが、どのくらいの頻度で起きるのでしょか.

A:間質性肺炎は、肺の間質に炎症が起き、呼吸機能が悪くなる病気です.1985年の厚生省の調べでは、間質性肺炎は1100人で、このうち薬剤によるものは15例でした 

1980〜1989年の10年間に日本で報告された.薬剤性の間質性肺炎は、185例でこのうち小柴胡湯によるものは、わずか1例でした 一方、1994〜1996年の間に小柴胡湯によるかも知れない間質性肺炎は漢方薬の最大手のツムラのデーターでは66例で、使用されている小柴胡湯の量より2〜3万人に1人発症するのではないかといわれています 

 

Q:57歳 男性 無職

小柴胡湯で間質性肺炎が起こると言われていますが、間質性肺炎とはどのようなものなのでしょう.

A:薬剤による間質性肺炎の原因はアレルギーによるものと、薬の毒性によるものの2通りがあり、小柴胡湯はアレルギーによるものとされています.

 

Q:52歳 女性

小柴胡湯による間質性肺炎について詳しく教えてください.

A:小柴胡湯による間質性肺炎は内服を始めてから6ケ月以内に起きている人が多く、早い人では内服開始後2週間以内(遅い人では6ケ月以後でもおられます)に起こり、1ケ月以内に約半数の方が発症しておられます.症状としては発熱、空咳、呼吸困難が主なものです 

治療は直ちに小柴胡湯の内服を中止し、ステロイド剤などの内服を行います.治療により多くの方は後遺症を残すことなく軽快しています ですから内服中に、この様な症状があった時は速やかに主治医に御相談されたほうが良いでしょう.

1994〜1996年の間に小柴胡湯によるこのような間質性肺炎の報告は漢方薬の最大手のツムラのデーターでは66例ですが、必ずしも全例が小柴胡湯によるものとは断言できないようです.さらに、亡くなった9例の方についても小柴胡湯との因果関係は必ずしもはっきりとはしていません 

Q:54歳 男性 会社員

B型慢性肝炎で小柴胡湯を2年前より内服していますが、効果としてはいかがなのでしょうか

A:慢性肝炎に対して小柴胡湯を内服した人のほうが、死亡率が少なく肝硬変ヘも進展しにくいという三重大学の報告がありますが、統計学上有意差はありません 

 国立松本病院も慢性肝炎よりの発癌率が普通年間1.7%であったのに対し、小柴胡湯内服群では0.36%と少なかったと報告されていますが、有意差はありませんでした 

Q:63歳 男性 会社員

C型の肝硬変と言われ、小柴胡湯を服用しております.医者から肝硬変でも効くと言われましたが、どのように効くのでしょうか.

A:肝硬変の死因には、大きく3つあります.肝癌、肝不全、消化管出血です.小柴胡湯はB型以外の肝硬変の方の発癌を低下させるという報告が大阪府立成人病センターより出ています αFP(アルプロフェクトプロテイン)といって、肝癌の指標となる検査値が高く、発癌しやすい人達でも小柴胡湯で発癌率が低下し、さらに小柴胡湯で肝硬変の死亡率の低下につながるという報告もなされています これらの結果は有意差があるため、主治医の先生が小柴胡湯を出されているのではないでしょうか.

 

Q:67歳 女性 主婦

C型慢性肝炎で2年以上小柴胡湯を内服しつづけています.このまま続けてもよいのでしょうか.

A:小柴胡湯にて、GOT、GPTが低下しているようならば、このまま続けて良いと思います.副作用として間質性肺炎が話題となっていますが、アレルギーによるものなので内服が長期になるほど起きやすいという副作用ではありません.(長く飲みつづければ起こるというものではなく、約半数の人は内服後2ケ月以内に起きています.)ですからメリットがある(GOT、GPTが下がっている)ようでしたら、デメリットのないよう(副作用が起こらないように、起きても早期発見・早期治療できるよう)にして、お続け下さい.