ウルソについて
ウルソの有効成分であるウルソデオキシコール酸は、我が国で消化症状の改善珍重された、動物性生薬として千数百年の歴史を持つ熊胆(ゆうたん)の薬効主成分として発見・同定された熊胆汁酸です。
日本では1957年から発売されており、胆のう・胆管疾患、肝疾患などに広く用いられています。また、海外でも広く使われており、欧米諸国においては、胆汁うっ滞性肝疾患や慢性肝炎への有効性、最近ではC型慢性肝炎に対する単独あるいはインターフェロンとの併用療法での有用性、厚生省で難病として認定されている自己免疫疾患である原発性胆汁性肝硬変(PBC)および原発性硬化性胆管炎(PSC)などの臨床的有用性が盛んに報告されています。
ウルソの薬効起源である熊胆は、中国唐時代の薬物書「新修本草」にはじめて収録・注解されています。
古くから鳥・魚・獣類の胆は薬物として用いられており、その発祥の地は西域(ギリシャ、インド、サラセンなど)と推定されています。
日本には奈良時代、遣唐使によって伝来したと考えられていますが、庶民に広く普及したのは江戸時代の漢方医学の大家、後藤艮山(ごとうこんざん)という人が熊胆丸(ゆうたんがん)なる丸剤を作ったことからだといわれています。
熊胆は万病の薬として古来より珍重され、特に腹痛の妙薬として推奨されてきました。後藤艮山の門人、香川修徳(1683〜1755)の著書「一本堂薬選」に熊胆の幅広い効能効果が詳細に記載されていますが、これらを現代的表現におきかえると、鎮痛、利胆、鎮痙、消炎、鎮静、解毒を目的としたものだと考えられています。
ウルソは多種多彩な薬効を持っていますが、代表的な薬理作用は利胆作用です。ウルソは分泌型利胆(胆管内の重炭酸イオンの増加を伴う)という特殊な利胆作用を持っていることがあきらかにされており、この作用に基づき、ウルソは利胆剤として臨床の場に導入されました。
臨床応用が本格化した1970年代に入ると、ウルソは慢性肝炎疾患患者の血清GOT、GPTを低下させることから肝疾患への有効性が評価され、その機序に肝血流増加作用による肝実質細胞正常化作用が寄与していることが示唆されています。
ウルソの効能効果は、現在「慢性肝炎」「術後消化不良」「高トリグリセリド血症」「胆道疾患」「胆汁うっ滞型肝障害」「胆石溶解」「原発性胆汁性肝硬変」とさまざまですが、この中で、最もよく使われているのがC型慢性肝炎等の「慢性肝炎」です。
C型慢性肝炎では経過中にC型ウイルスが自然消失することはほとんどなく、多くの場合、肝臓の病理学的な変化の進行は緩やかですが、20〜25年の経過で肝硬変に至ると、年率6%を超える高い頻度で肝細胞癌が発生するといわれています。
現在のところ、ウイルスを駆除できる治療法はインターフェロン療法に限られていますが、これまでインターフェロン療法を受けたC型慢性肝炎患者のうちウイルスが駆除できたのは約3割と推定されています。
そこで、C型慢性肝炎の炎症軽減と病変進行を抑制できれば肝癌発生の抑止に結びつくことが期待できるとの考えからウルソの適用が行われています。
C型慢性肝炎に対するウルソ療法の成績は表に示すように、血液生化学データが有意に改善し、肝機能の改善効果がみられます。
至適用量は600mg/日が主体であり、1年以上の投与では有効例で肝臓の組織の改善が認められています。
また、インターフェロンとウルソの併用療法も試みられており、インターフェロン投与終了後の肝炎の再燃を遅らせる効果やインターフェロン投与後のウイルスの再陽性化を抑制する効果が認められています。
一方、ウルソはインターフェロン無効例に対してもGPT、γ-GTPの有意な改善を示し、インターフェロン無効例に対する有効な抗ウイルス療法がない現時点では、ひとつの有力な治療薬になりうると考えられています。
作用メカニズムとしては、詳しいことはまだよく分かっていませんが、ウルソの投与により親水性(細胞に対する障害性の少ない比較的無害な)胆汁酸が増加している症例ほど肝機能の改善がみられていることから、肝細胞に対して障害作用を有する疎水性胆汁酸を親水性のウルソに置き換えてやることで肝細胞の障害を防いでいるものと推測されています。
また最近ではリンパ球による肝細胞の攻撃を抑えるという免疫学的な効果も示唆されています。
副作用についてですが、ウルソの副作用としては、主に消化器症状(下痢、軟便、悪心、嘔吐)や皮膚のかゆみなどですが、重篤なものは報告されていません。
C型慢性肝炎では長期間の薬剤投与が行われますが、ウルソは副作用の発現が少なくその程度も軽いので安心して服用できる薬剤だといえるでしょう。
C型慢性肝炎に対するウルソデオキシコール酸投与の効果
報告者 | 患者数 | 投与量 投与期間 |
肝機能検査の変化 | 組織学的変化 |
Poddaら | 24例(B型4例、 非B型20例) |
1)ウルソ600mg単独 2)タウリン1.5グラム単独 3)ウルソ600mg+タウリン1.5g 4)プラセボ 2ヶ月ごと二重盲検試験 |
ウルソ投与によりGOT,GPT,γ−GTPがそれぞれ33、35、25%低下。 タウリン投与では変化なし。 |
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Bellentaniら | 60例(B型9%、 C型82%) |
600mg 1年間 二重盲検試験 |
ウルソ投与前に比べGOT,GPT, γ−GTPが25%低下。 プラセボは変化なし。 |
変化なし。 プラセボと変わらず。 |
Luら | インターフェロン 無効15例 |
600mg 6ヶ月 |
GPT,TNF-α,IL-6有意な変化なし。 プラセボと変わらず。 |
変化なし。 プラセボと変わらず。 |
中村ら | 17例 | 600mg 1年間以上 |
6例でGOT,GPT,γ−GTPが前値の 1/2以下に低下。 |
有効例で小葉内肝細胞 壊死像の改善。 |
滝川ら | 40例 | 150mgあるいは450mg 12週間 |
150mg:GOT,GPT変化なし。 450mg:4週後より、GOT,GPT 有意に低下。 |
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Angelicoら | 40例 | インターフェロン―α 6MU週 3回(6ヶ月)に ウルソ 10mg/kg連日(9ヶ月) 併用 二重盲検試験 |
インターフェロンに対する反応性、インターフェロン治療終了後のGPT再上昇率は不変。インターフェロン終了後の再燃が有意に遅延。 | |
Boucherら | 80例 | インターフェロン―α 3MU週 3回(6ヶ月)に ウルソ 10mg/kg連日(9ヶ月)併用 二重盲検試験 |
インターフェロンに対する反応性、ウイルスマーカーは不変。 インターフェロン終了後の再燃が有意に遅延。 |
肝組織像は不変。 |