ゼッフィックスに関して

 

はじめに

ゼッフィックスは近年発売されたB型肝炎の薬剤です。極めて強い抗ウイルス作用があり(一般的にはインターフェロンより強力です)、副作用も殆んどありません(インターフェロンと比べると全く無いと言っても良いでしょう)。

HBVDNAの陰性化率やe抗原・抗体のセロコンバージョン率も自然経過群より高く、組織学的な改善が見られる方が多いのも事実です。

一方、現在までの時点では長期投与を行ってもウイルスが完全に体内から駆逐されるわけではありません。そればかりか、投与中止後に肝機能の増悪を来たす方や、投与中に耐性株が出現してしまう場合があるなどの問題点もあります。

短期的には非常に有効ですが、長期的にどこまで有用かはまだはっきりしていないと私は考えています。

B型慢性肝炎では自然治癒と呼ばれ、自然にウイルス量が減少し炎症が治まる方が多いことが解っています。そうしますと、若くて肝臓の線維化も少ない方に投与するべきかどうか迷ってしまいます。

(発癌率が下がるとか、自然治癒率が上がるとか、長期予後が明らかに改善されるなどの証明があればよいのですが、まだ証明されていません。)

しかし、肝不全に落ちるような強い炎症の起きてしまった場合や、このままでは早期に肝硬変に進行してしまいそうな方には 今はこの薬しかない(というよりこの薬を使うべき)でしょう。

 

有効性

GPTの正常化やDNAの陰性化率は1年程度で最も高く80%前後です。しかし、耐性株の出現などでその後数年で50%程度に低下します。

ゼッフィックス長期投与でセロコンバージョンは治療開始時のウイルス量が少ないほど、GPT値が高値ほど起こり易いです。GPT値が正常値の5倍以上では4080%にセロコンバージョンが起こるのに対し、二倍以内ではほぼ一割に満たない結果です。投与期間が一年で1020%、二年で2030%、三年で3040%程度で、長期に使い続けるほどセロコンバージョンは起き易いです。

セロコンバージョンが起こった後に投与を中止してもセロコンバージョンが維持できるかは大切な点ですが、約半数は12年内で再燃するとの報告があり今後の大きな懸案事項です。

e抗原陰性で活動性の肝炎(もちろんDNAが陽性です)でも、DNAの陰性化とGPTの正常化が起きますが、投与中止後の再燃率はさらに高いとされています。

 

耐性の問題

ゼッフィックス長期使用例の一部からYMDD変異と呼ばれるゼッフィックス耐性(効かなくなる)の変異ウイルスが出現してくる事が知られています。これらの変異にはYIDDYVDDなどが知られています。

耐性はゼッフィックスを長期に使用している場合に出現してきますが、治療開始前のウイルス量の多い方ほど出現しやすいとされています。毎年約1020%の割合で耐性株が出現してくるようです。つまり長く使えば使うほど耐性株が出現しやすくなります。

耐性株は一般的には増殖能力が低いとされていますが、耐性株の出現した方々からの急性増悪(肝不全にまでなった方を含め)の報告もあり、注意深い経過観察が必要となります。

 

肝硬変になってしまった方へは

保険の適応はありませんが、黄疸が良くなったりアルブミンが増加したり良くなったりするとの報告はあります。しかしまだまだ症例数は少なく長期的にどうかは解りません。

 

今のところの私の考え

耐性株ができなければ、とっても良い慢性肝炎のお薬です。でも…ウイルスもさるもの高率に耐性株ができてしまいます。耐性株が出ずにうまく行った方にはとってもいい薬ですが、そうでない場合は医者としてとっても困ってしまいます。こんな場合はインターフェロンなどと併用するなどしか方法がありません。長期間使うほど利点と欠点の出てくる薬剤です。ホント使いにくい!!!

高血圧の薬のように、飲んでる間はうまく行くといいんですが…。そこで、耐性株といえばエイズウイルスが高率に抗ウイルス薬に対し耐性となり、新しい薬剤とのいたちごっこだったのに…今はカクテル療法といって、数種類の抗ウイルス剤を併用する事で高率に耐性の出現が防げています。B型肝炎もカクテル療法でしょう。もうしばらく(数年)待てば新しい抗ウイルス薬が出そうです。これらの薬剤の併用が良いのではないか…それまで待てるなら、今すぐゼッフィックスを使用して耐性を作らずに待っていた方が良いのではないか、と思います。しかし、肝硬変・肝不全が目前に迫りもう待てない方は使用を検討するべき薬剤と思います。