EPLカプセルについて

 

EPLの主成分であるポリエンホスファチジルコリン(PPC)は、大豆より抽出されたリン脂質です。PPCには2分子の脂肪酸が含まれていますが、その内の約2/3がリノール酸です。このリノール酸は、血中コレステロールの異化排泄を促進することから、古くよりヨーロッパを中心に “高脂質血症”の治療薬として使用されてきました。

 一般に、肝細胞膜を始めとして、肝細胞内の小器官であるミトコンドリアやミクロソームを形成する膜、単純な細胞である赤血球の膜は、脂質の二重層からなっています。

正常な肝臓では脂肪の70%近くをリン脂質と呼ばれるデリケートな脂質が占め、ことに肝細胞膜は90%がリン脂質そのもので出来ています。肝細胞膜内で障害を受けたリン脂質をEPLのPPCに置き換えることで膜安定化作用が得られることから、EPLは“慢性肝疾患における肝機能の改善”という目的でも使用されています。

 そして、今日の日本でEPLは、“脂肪肝”に適応症を持った、唯一の肝庇護薬として幅広く使用されています。“脂肪肝”は特殊な場合を除き、肝臓に中性脂肪が蓄積する病気で、肝臓における中性脂肪の合成亢進と、分泌抑制が複雑に絡み合っています。

EPLのPPCが肝臓に蓄積した中性脂肪のリポ蛋白形成を促進して、中性脂肪を血液中に排泄します。そしてPPCはリポプロテインリパーゼという脂肪分解酵素を活性化して、リポ蛋白中の中性脂肪をグリセリンと遊離脂肪酸に分解します。

 “脂肪肝”は良性の疾患ですが、近年、健康な人に比べて虚血性心疾患にかかりやすいとの報告もあって、生活習慣病の入り口になるとも考えられています。

食事療法、運動療法で治療効果が認められない時に、6Cp/Dayを、3ヶ月〜6ヶ月の間服用すると、脂肪沈着、トランスアミナーゼ、自覚症状等の改善が認められています。

 EPLの副作用としては、主に消化器症状(下痢、胃部不快感、腹部膨慢感、悪心)ですが、重篤なものは報告されていません。

 

EPLとC型慢性肝炎

 

C型慢性肝炎の治療法としては、唯一インターフェロン療法が、原因療法として認められています。しかし、ウイルスが駆除できるのは約3割です。抗ウイルス剤のリバビリンを併用しても約5割と言われています。

その無効例に現在、ウルソ、強力ミノファーゲンCが幅広く使われておりGPT、γ―GTPの有意な改善が認められています。

 ところが、C型肝炎には脂肪沈着例が多く、その原因は肝細胞内のミトコンドリアがC型肝炎ウイルスによって障害を受け、肝細胞に流入した脂肪酸のβ酸化に異常が起きた結果という説が有力視されています。ただし、脂肪蓄積が病態にどのように関与しているかは明らかにされていません。EPLは肝臓に貯まった中性脂肪をVLDLとして肝臓から運び出し、リポプロテインリパーゼを活性化して、肝臓に貯まった中性脂肪を除去します。

また、EPLには、in vitroで脂質抽出ミトコンドリアの呼吸機能を回復する効果が報告されています。C型肝炎ウイルスの芯をなすタンパク質は、鉄を貯め込む性質があります。

その鉄が、ウイルスによる炎症で発生した活性酸素を、ヒドロキシラジカル(強力なフリーラジカル)に変えて肝細胞膜に過酸化脂質を作り、細胞膜を障害すると言われています。EPLには、その障害を受けた膜の修復作用があり、かつ、動物実験(バブーン)で抗酸化ストレス作用が認められたことも報告され、ヒドロキシラジカルの酸化ストレス作用から、肝細胞膜を保護する可能性が示唆されています。

 1998年にドイツを中心とした東ヨーロッパの23施設にて、インターフェロン(I

FN)を対照薬として、EPLの多施設、無作為、二重盲検、プラセボ管理による大規模な臨床実験が実施されました。その結果、C型慢性肝炎の患者においてEPLはウイルスの除去に対し、IFNの効果を促進しませんでした。                    

しかし、GPTを50%以上低下させた症例は、IFN単独群は56%に対し、EPLIFN群は71%と有意に改善しました。                         

EPLIFNや他の坑ウイルス剤とは違って大きな危険はなく、非常に扱いやすい薬剤です。一方、国内では1施設で臨床実験の論文が発表され、2施設において臨床実験が進行中です。

EPLとNASH

 

アルコールを飲まなくても肝硬変になる可能性のある脂肪肝、それが非アルコール性脂肪性肝炎―通称“NASH”です。

 NASHでは、アルコールを飲まずウイルス性肝炎の合併もない患者で、普通の脂肪肝で見られる脂肪滴に加えて、肝細胞壊死、肝線維化が認められます。普通の脂肪肝と血清生化学的データを比較すると、血清フェリチンが有意に高いことが特徴的です。血清フェリチンは主に、生体内の貯蔵鉄量を反映する鉄マーカーです。

 “NASH”の発生機序については未だに不明ですが、インスリン抵抗性、肝臓の脂肪化、鉄の過剰蓄積などをベースにした、酸化ストレス状態が深く関与していると、THE・LANCET誌上で報告されています。

 治療法として、肥満者では食事療法、運動療法で体重を減少させる、糖尿病患者では血糖をコントロールすると肝脂肪が減っていきます。うまくいかない場合には、脂肪肝に適応症のあるEPLが投与されます。EPLは動物実験(バブーン)で抗酸化ストレス作用も報告されています。

 また、肝臓の鉄を減らす瀉血療法(保険で認められた治療法ではありません)が、有望視されています。これは静脈血を抜いて赤血球を減少させることによって、肝臓の鉄が赤血球ヘモグロビンの生成に使われて減少するというものです。