インターフェロンについて

今回はC型肝炎のインターフェロン治療についてご説明したいと思います。
インターフェロンは人間等がウイルス感染を受けた時などに体の中で作るタンパク質の一種です。インターフェロンの種類は、現在までにα型、β型、γ型の3種類が分かっています。それぞれの性質は少しずつ異なっていますが、主な作用として抗ウイルス作用、免疫増強作用、抗腫瘍作用などがあります。インターフェロンによる慢性ウイルス性肝炎の治療は、この抗ウイルス作用により肝炎ウイルスを攻撃し、ウイルス性肝炎の治療をしようというものです。(もちろん、強力ネオミノファーゲンシーなどのように肝臓内の炎症もとれます。)1986年にB型慢性活動性肝炎に対して保険適用となり、92年からはC型慢性活動性肝炎に対してもインターフェロンによる治療が保険適応となりました。

では、いったい何のためにインターフェロンによる治療を行うのでしょうか。
その前に「なぜ慢性肝炎の治療が必要か」ということについて、お話したいと思います。慢性活動性肝炎を放置しますと、将来肝硬変・肝ガンへ進行する可能性が高いため、その進行を抑えるために治療が必要です。そのための治療としては、「強力ネオミノファーゲンシー等によって肝臓の中の炎症を抑え、病気の進行を抑える」という治療と、「インターフェロンのように病気の原因であるウイルスそのものをやっつけてしまう」という治療が主なものとして考えられています。

ではインターフェロンによってどのような治療効果の予測がなされているでしょうか。
治療効果として、

◇1番目の効果:ウイルスが完全に排除されて病気の進行が完全に止められる。
◇2番目の効果:GOT、GPTが治療終了後も長期間にわたり、ほぼ正常化する。
◇3番目の効果:将来の肝ガン発生率が低下する。
以上の3点が期待できます。
1番目の効果についてですが、この効果が期待できる方はC型慢性活動性肝炎でインターフェロンの治療を受けられる方のうち約30%です。つまりインターフェロンの治療を受けられた10人のうち3人は、体の中から完全にC型肝炎ウイルスが消えてしまい、その後一切治療が必要なくなるわけです。(経過観察が不必要になるわけではありません。)自然経過やそれ以外の薬でこのように良くなった、といえる状態にまでできる薬はありませんし、自然経過でもそのようなことはありません。
2番目のインターフェロン治療が終わっても長期にわたって肝臓内の炎症がとれる方は、1番目の効果の方を含めて治療を受けられる方のうち約4〜5割の方がそのような効果が期待できます。つまりインターフェロンを使用した4〜5割の方がGOT、GPTがほぼ正常化し、さらにその内にはウイルスが完全に排除できた方もおられるわけです。
では残りの半分強の方は「治療をしなかった方が良かったのか」というとそうではなく、インターフェロン治療をしなかった方に比べて将来の発ガン率が有意に低い(将来の肝ガン発生率が低下する。)といわれています。
以上より、確率的な問題でしかないのですが、インターフェロン治療を行えるのであれば、治療した方が良いのではないか、という考えが今主流になっています。

次に、どんな方にインターフェロン治療をすべきかということについて述べます。
インターフェロン治療は将来肝硬変や肝ガンへの進行を抑えるために行うわけですから、進行する可能性の少ない方(現在、肝臓の病状があまり進行していなくて、なおかつある程度年齢の高い方)は無理に治療を受けられる必要はありません。将来肝硬変や肝ガンへの進行する可能性の高い方(病状が進行し、肝炎の活動性の強い方)、及びインターフェロン治療の効きやすい方はインターフェロン治療を受けられた方がよいでしょう。(決して急いで治療を行う必要はありません。)若くて、慢性活動性の強い方については、多少インターフェロンが効きにくいと思われても、治療をお受けになってはいかがでしょうか。

ではどういう方にインターフェロン治療が効きやすいかということについてご説明します。
血液中のウイルスの量、ウイルスの型、病状が治療効果に影響します。
ウイルスの量につきましては、現在DNAプローブ法とPCR法による定量が保険で可能となっております。
DNAプローブ法では10メック以上の方では1割以下、数メックでは2〜3割の方が0.5メック以下の方では7〜8割の方がウイルスを完全に排除することができると期待できます。PCR法では(アンプリコアモニター法)では、50Kコピー以下の方が0.5メック以下の方と量的にはほぼ同じと考えてよろしいかと考えています。つまり血液中のウイルス量で大体のインターフェロン治療効果の予測ができ、量が少ない程良く効くわけです。
次にウイルスの型ですが、型の分けかたには「遺伝子によって型を分ける方法」と「血清の抗体によって型を分ける方法」の二通りの方法があります。保険適用となっていますのは後者で、これはグループ1とグループ2の二つに分けられます。
このグループ1の中に遺伝子型の1a型、1b型が入っており、日本人では1a型はほとんどおられず、1b型が7割でこの1b型はインターフェロンが効きにくい型です。1b型は血液中のウイルス量も多い方がほとんどです。グループ2の中には遺伝子型の2a、2bのタイプの方がおられ、2aの方は非常にインターフェロンの治療が効きやすく、ウイルス量の少ない方が多いです。2aの方は日本ではC型肝炎の方の内2割ぐらいおられます。2bの方でのインターフェロンの治療の効き易さは、1bと2aの間です。たとえ、1b型であってもウイルス量の少ない方ではウイルスを完全に排除できる確率が高いということもわかっています。
最近、新聞などで1bの野生型は、インターフェロンが無効となっておりました。
1bとは、この遺伝子による分類による型です。1b型の遺伝子の内NS5と呼ばれる部分の遺伝子の配列に変異のある変異型ではインターフェロンが効きやすく、変異のない野生型では効きにくいとされています。この、効く効かないの意味は、完全にウイルスの排除ができるかできないかであって、2番目や3番目の効果の有無は検討されていません。)
また、慢性肝炎の初期の方と肝硬変に近いほうを比べると、慢性肝炎の初期のほうがインターフェロン治療効果が期待できます。
ここ一年ぐらい前より、その効果よりむしろ副作用の報道が増えたため、インターフェロン治療を躊躇される患者さんが増えているのも事実だと思います。やはり「副作用が心配」というご質問が多いです。確かにインターフェロンには様々な副作用があります。しかしながら、非常に重篤な症状になる方はほとんどおられません。我々は、入院中に副作用の早期の症状をお話ししまして、そういう症状が出ればいち早く主治医に連絡をしていただき、早期に副作用を発見できるようにしております。外来治療でも最低2週間に一度は患者さんの様子を診て副作用の早期発見につとめております。副作用がでた場合は、必要があれば対症的な治療を、またはインターフェロンの減量・休薬・中止をするというようなことを行っております。これによりまして、重篤な副作用は起きておらず、また副作用が長期間残るというようなことは一切起きておりません。特に重篤な副作用として、うつ病や甲状腺などの自己免疫疾患・間質性肺炎等がありますが、確率的には非常に少ないものです。(このような病気をすでにお持ちの方は、病状が悪化する可能性が強いので、インターフェロン治療はされない方がよいと思います。)一方、ほぼ全員に出る副作用として、発熱、頭痛、全身倦怠感、食欲不振等があります。これらの症状につきましては、対症的な治療により乗り切れる方がほとんどです。
たとえば、早期のガンが見つかった場合、完治するには手術が必要です。これと同様に、多くの病気の治療には多少の苦痛が伴います。「C型肝炎など何10年も体内に住み着いたウイルスを排除するためにはある程度の苦痛は避けられない」と思います。もう一度、治療のメリットとデメリットについてお考えになってください。
ただし、副作用が少ないにこしたことはないのも事実です。しかしながら、その副作用を我慢すべき範囲のものかどうか、専門医に判断をお委せ下さい。副作用を恐がって十分な量を使わなかったり、自覚症状等が強いから途中で治療を中止する等、治療が中途半端になりますと、当然当初に書いたような効果効果は望めません。中断せずに、インターフェロンの種類を変えて続ける等対処の仕方もあります。
C型肝炎はインターフェロン以外の治療では完治は望めません。インターフェロンによって侵攻を止めるだけでなく根本的にウイルスを排除でき、完治できる可能性があるということ。一方、高血圧や糖尿病などの多くの慢性疾患では、対症療法だけで、このC型肝炎のインターフェロン療法のような完治を望めるものはありません。また、何も治療しなければ肝硬変、肝ガンに進行する可能性がありますので、肝炎の進行を少しでも抑えればそれだけ時間をかせげるわけです。インターフェロンが効かなかった場合でも炎症を抑える働きを持つ強力ネオミノファーゲンシー等でGOT、GPTを抑え肝硬変に進むのを抑制するという治療法もあるわけですから、インターフェロンでは完治は3〜4割ですが、肝炎を抑えるということをもって評価されていい薬ではないかと思います。


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