もくじ

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まえがき
第1章 日本の慢性肝炎の現状
第2章 慢性肝炎の診断
第3章 慢性肝炎の経過観察
第4章 肝炎ウイルスの感染予防
第5章 慢性肝炎の治療
あとがき

    ま え が き

社団法人 日本肝臓学会

理事長 谷川 久一

このガイドラインは,第一線で活躍しておられる肝臓病の専門でない一般の医師の方々のために書かれたものです.
肝炎ウイルスの持続感染に基づく慢性肝疾患(慢性肝炎・肝硬変)患者から高頻度に肝がんが発生する,すなわち慢性肝炎からは年間1%前後・肝硬変からは年間7%前後に発生する.この様な事実をふまえ,肝炎ウイルスの持続感染に基づく慢性肝炎の治療,あるいは肝炎ウイルスの感染予防を考える必要があるとの認識から,このガイドラインの刊行が日本肝臓学会で企画されたものです.
お役に立てれば幸いです.

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第1章 日本の慢性肝炎の現状

     吉澤 浩司
   (広島大学公衆衛生学)

T.C型肝炎

1.どのように広がっていったか
 C型肝炎ウイルス(HCV)は血液を介して感染する.HCV感染の広がりを理解するためには,まず,成人でもHCVの感染を受けると高率(60〜70%)に持続感染状態になる(キャリア化する).このことと感染源がどうであったか,感染経路がどうであったかを理解することによって,日本での流行の背景を知ることができる.
 わが国におけるHCV感染の流行は,1950年代から1960年代にかけて主として若い年齢層を中心に起こり,その後,徐々に終息の方向に向かい,今日に至ったと推測される.

1)感染滞としてのHCVキャリアの累積
 1990年に厚生省薬務局から出された「麻薬・覚醒剤使用の概況」によれば,1951年当時,15歳から25歳人口の5%が覚醒剤を服用し,薬物依存者が多数出たことが問題となり,1951年に「覚醒剤取締法」を制定して法的に使用を禁止したことから,覚醒剤の濫用者は地下に潜った形となり,剤型も錠剤から静注用に変化した.当時の覚醒剤使用者数は55万人であったと記載されている.
 静注用覚醒剤濫用とHCV感染との関係について,1992年に行った調査では,38例中30例(78.9%)がHCV抗体陽性であり,その後,国立精神研の和田らが行った全国調査でも,この集団の60%がHCV抗体陽性であった.この高いHCV抗体陽性率は,滅菌不十分あるいは不潔な注射針,注射筒の使い回しや,繰り返し使用が,この集団内に感染源としてのHCVキャリアの累積を招き,最終的にはHCV感染の流行が起こるに至ったことを示している.近年,覚醒剤取締法違反による検挙者が再び増加する傾向がみられ,小型ながらHCV感染滞としてのHCVキャリアの累積が依然として起こっていることを示唆している.

2)様々な感染経路の存在
 1960年代までのわが国は,敗戦後の社会,経済状態の劣悪さからの復興途上にあり,衛生環境,医療環境は劣悪な状態にあった.当時は,血液を介して感染するHCVの感染経路が数多く存在していた.主なものを挙げても売血行為,輸血,手術,採血,注射等の医療行為,様々な観血的民間療法,刺青など枚挙にいとまがない.このことは,1960年代半ばに輸血を受けた人の50%以上に輸血後肝炎が起こっていたことによって裏付けられている.
 この状態は,その後の社会,経済状態の安定,向上に伴って徐々に解消され,1990年代には,輸血も含めた水平感染によるHCVキャリアの新たな出現ははとんどみられない状態となった.このことは,1990年代における献血者集団をはじめとするいわゆる健常者集軌こおけるHCVキャリアの新規発生は10万人当り1.8〜4.5程度に抑えられていること,若年者の集団 ではHCV抗体陽性率が0.08%程度と極めて低い値を示すに止まっていることなどにより裏付けられている.

2.感染者数はどれくらいか
 結論から言えば,社会に潜在しているHCVキャリア数の近似値を把握する術はない.
 小中学校の児童,生徒(岩手県,静岡県),献血者(北海道から九州に至る11の血液センタ ー),献血年齢を越えた65歳以上の地域住民健診受診者(広島県)のHCV抗体陽性率とHCV抗体陽性者中に占めるHCVキャリア率をもとにHCVキャリア数を横算すると,約215万人という数値は得られる.

3.今後の新規感染者数の推移はどのように予測されるか
 先に述べたように,献血者集団をはじめとする一般健常者集団におけるHCVキャリアの新規発生率は10万人当り1.8〜4.5と極めて低い.また,HCVキャリアから出生する児の母子感染率も2.3〜5%前後と極めて低率に止まっている.一方覚醒剤常用集団におけるHCV抗体陽性率は約60%と高い値を示し,近年,透析医療機関内では,HCVの新規感染者が散見されるとの成績が得られつつある.これらを総合すると,現在のわが国の社会,経済状態が保たれる限り,各年齢階級別のHCVキャリア率に影響を及ぼす規模での新規の増加はないであろう.

U.B型肝炎

1.どのように広がっていったか
 B型肝炎ウイルス(HBV)感染の感染滞は,はとんどがHBVキャリアである.HBVキャリアの原因となる感染は,2〜3歳までの感染で,それ以後にHBVに感染してキャリアにな ることは稀とされている.HBV感染は本来,母子感染により人類の長い歴史の中で縦承されてきたと考えられる.30歳以上の世代では,母子感染によるもののほか,C型肝炎と同様に不潔な医療行為などによる水平感染もみられ,キャリア率は1〜3%であるが,それ以下の世代では医療環境の改善により水平感染は姿を潜め,キャリア率は1%前後に,さらにB型肝炎の母子感染の防止が全国的に行われるようになってからは0.05%のキャリア率となっている. 

2.感染者数はどれくらいか
 HBVキャリア率は年齢により大きく異なるが,キャリア率と日本人の年齢別人口構成から概算すると,1%強で150万人程度と言われている.

3.新規感染者数は
 1986年から開始されたB型肝炎母子感染防止事業により,新規のHBVキャリアは,年間300〜400人に減少していると推計されている.事業開始前の10分の1である.また,成人でみられるB型急性肝炎は,その大部分が性感染である.しかし,その実数は得られていない.

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第2章 慢性肝炎の診断

    清澤 研道  田中 栄司
       (信州大学第2内科)



1.ウイルス検査は何を見るか

 HBV持続感染者ではHBs抗原が陽性となり,通常HBc抗体が同時に陽性となる.HBe抗原・抗体の測定や血清中ウイルス量の測定(DNAポリメラーゼ,HBVDNA)は病態の把握,および治療効果の予測や判定に有用である.一般にHBe抗原陽性例ではHBVの増殖は盛んで血清中ウイルス量は多く,慢性肝炎例では肝炎の活動性は高い.HBe抗体陽性例はこの逆の傾向を示す.HBe抗体陽性で高ウイルス量を呈する場合はプレコアまたはコアプロモーター変異株による重症型の肝炎を考慮して対処する.
 HCV感染者のスタリーニングにはHCV抗体(第二世代または第三世代)の測定を行う.ウイルス血症の確認はHCVRNAの定性的測定により行う.この検査は,現在HCVに感染状態にあることの確認や,インターフェロン治療などの効果判定に用いられる.
 ウイルス量の測定や遺伝子型の判定は,C型慢性肝炎におけるインターフェロン治療効果の予測に有用である.ウイルス量は,血清中HCVRNAまたはコア蛋白を定量的に測定して判定する.遺伝子型は血清学的または遺伝子学的方法で判定する.前者はグループ1(1aと1b型)と2(2aと2b型)が判別可能である.本邦ではグループ1と判定された場合99%は1b型である.グループ2では約70%が2a型,約20%が2b型である.

2.肝機能検査の選択はどうするか

 AST(GOT),ALT(GPT)のトランスアミナーゼは逸脱酵素と呼ばれ,これらの上昇は肝細胞の変性・壊死を反映する.このため,慢性肝炎の診断,肝炎活動性の評価,治療効果判定などに必須である.
 免疫グロプリン,または膠質反応(ZTT,TTT)の上昇は慢性肝疾患に多くみられ,特に慢性活動性肝炎や肝硬変で著明である.一時的にトランスアミナーゼが正常化する場合でも膠質反応は正常化しないので,スクリーニング検査では両者(AST・ALTとZTT・TTT)の組み合わせで慢性肝炎の見落しが減少する.
 肝細胞障害で黄疸が出現する場合は一般に直接型ビリルビンが優位となる.慢性肝炎の急性増悪や肝硬変で血清ビリルビンが上昇する場合は肝不全状態を示唆する.
 肝臓での蛋白合成能低下は肝細胞機能不全を鋭敏に反映する.アルブミンやコリンエステラーゼは血中半減期が長く(数週),肝硬変などによる慢性肝不全の評価に用いられる.血液凝固因子(プロトロンビン時間,等)は血中半減期が短く(数時間)リアルタイムに変化するため,慢性肝炎の急性増悪を含む急性肝不全の評価にも威力を発揮する.
 色素負荷試験であるICG試験は肝実質機能および肝有効血流量を反映し,肝硬変の診断や肝切除術における切除可能範囲の決定に有用である.

3.肝線維化の指標はなにか
 肝線維化は肝生検を行い組織学的に評価するのが最も正確である.肝線維化マーカーは、より簡便に肝線維化の程度を評価するため開発されたマーカーであり,ヒアルロン酸,W型コラーゲン,等が使用されている.血小板数も肝線維化の程度を鋭敏に反映し,簡便であるので,日常診療で使用しやすい検査である.腹部超音波検査などの肝画像診断でも肝線維化の程度を大まかに予測可能である.

4.肝生検組織からどのような情報が得られるか
 針生検による肝の病理組織学的検討は,慢性肝炎の診断のみならず,線維化の進展度や肝炎活動性の把握に有用である.
 肝組織所見を線維化と壊死・炎症所見に分けて表記することが一般に行われている.新犬山分類では前者をF0からF4に,後者をA0からA3に分類している(表1).



         表1 肝組織の新犬山分類

線維化の程度 壊死・炎症所見の程度
F0:線維化なし
F1:門脈域の線維性拡大
F2:線維性架橋形成
F3:小葉のひずみを伴う線維性架橋形成
F4:肝硬変
A0:壊死・炎症所見なし
A1:軽度の壊死・炎症所見
A2:中等度の壊死・炎症所見
A3:高度の壊死・炎症所見

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第3章 慢性肝炎の経過観察

    山田剛太郎

    (川崎医科大学附属川崎病院肝臓病センター)

1.日常診療において進展を予測し得る指標として何を選ぶか

 日常診療における慢性肝炎の進展は肝生検のステージ診断によるのが理想である.しかしながら,侵襲を伴う検査を出来るだけ減らすためには定期的な血液生化学検査と画像検査により,ステージの進展を予測する必要がある.末梢血液検査では白血球数,血小板数はステージの進展に伴って減少する.特に血小板数は段階的に減少し,線維化の進展とよく相関する.生化学検査ではAST(GOT)/ALT(GPT)比は慢性肝炎ではALT>ASTであるが,進展につれて1.0に近くなり,肝硬変ではAST>ALTと逆転する.総蛋白,アルブミンは慢性肝炎ではよく保たれるが,肝硬変では減少する.ICG15分停滞率も線維化進展の指標となる.また,線維化マーカーではヒアルロン酸,TX型コラーゲンの血中濃度が進展の予測に有用である.
 肝線純化の進展を予測するための画像診断としては腹部エコー検査が有用である.ステージの軽い慢性肝炎では特徴的所見に乏しいが,線維化の進展につれて,肝辺縁の鈍化,肝実質エコーの不均一化,肝内脈管の不明瞭化,軽度の脾腫の出現等が見られる.

2.肝硬変の良い指標は何か

 慢性肝炎から肝硬変への進展の指標としては腹腔鏡下肝生検による結節形成の確認がゴールド・スタンダードであるが,日常診療では理学所見のクモ状血管腫,手掌紅鍾,女性化乳房,腹壁静脈怒張などの出現に加えて,血小板数10万以下,AST/ALT比の逆転,血清蛋白・アルブミンの減少,総コレステロールやコリンエステラーゼの減少,ICG15分停滞率25%以上,さらには線維化マーカーのTX型コラーゲンの高値,特に血清ヒアルロン酸の著明な上昇などが診断のよい指標となる.画像診断も肝硬変診断の指標として欠かすことは出来ない.腹部エコーでは肝右葉の萎縮・左葉の腫大,肝表面の不整・波打ち様凹凸不整,肝実質エコーの粗造化,肝内脈管系の狭小化,中度から高度の脾腫や門脈本幹の拡張,腹水などの所見は肝硬変への進展を示唆する.CTでも同様に肝表面の凹凸不整や右葉の萎縮・左葉の腫大などの観察や,MRIでの再生結節の出現は診断の有用な指標となる.

3.肝細胞癌のスクリーニングをどうするか

 慢性肝炎,肝硬変患者では肝細胞癌の発生に備えた定期的な画像検査と腫瘍マーカーによるフォローアップが最も重要となる.特にC型慢性肝炎では線維化の進展とともに発癌率が高まり,進展に応じたスクリーニング計画が必要である.腹部エコー検査は肝細胞癌の早期発見に最も役立ち,原則としで慢性肝炎では6ヵ月毎,ハイリスクグループである肝硬変では3ヵ月毎の熟練した術者による丹念な検査が必要である.
また,早期発見のためには定期的なヘリカルCTやダイナミックMRIによる検査も有用である.腫瘍マーカーではAFP,PIVKA−II,AFP高値の場合AFP―レクチン(L3)分画の測定肝細胞癌の早期発見に有用である.

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第4章 肝炎ウイルスの感染予防

  各務 伸一  福沢 嘉孝
   (愛知医科大学第1内科)

1.感染経路について

 主なヒト肝炎ウイルスは,現在A型からE型までの5種類が知られている.A型とE型は,飲食物を介して経口感染し,B型,C型とD型は,血液や体液を介して感染する.

2.家族内感染予防について

 A型とE型はともに経口感染であることから,生水,生ものの摂取に十分注意するとともに,患者排泄物や衣類(特に下着)の取り扱いを厳重に注意する(注1).手洗い,うがいなどの励行に心掛ける.A型の特異的感染予防にはA型肝炎ワクチンが使用されている.E型でもHEVワクチンの開発が進められている.
 B型および日本では感染例が殆どないD型は,日常生活(食事,入浴)では感染しない.しかし,患者の血液や体液が付着しないように取り扱いには十分注意する.積極的予防策としてHBワクチンが使用されており,その対象は第1にHBVキャリアー妊婦よりの新生児である.HBe抗原陽性例では高率にキャリアー化が見られ,HBe抗体陽性例でも一過性ながら肝炎を発症しうる.現在,母児感染予防には保険診療が可能である.第2はHBVキャリアーの家族,医療従事者である.なお,成人での感染は性的交渉によるもので,B型急性肝炎のほとんどを占めている.
 C型肝炎は,日常生活での感染は殆ど心配ないが,母児感染や性的交渉による感染が頻度こそ低いものの起こりうるので,患者の血液や体液が付着しないように十分注意する.C型肝炎に対する特異的予防法は今のところない.

3.医療施設内での感染予防について

 感染経路としては,医療従事者による患者採血後の注射針による針刺し事故の頻度が最も高い.医療を介しての患者から患者への感染も軽視できない.例えば,肝炎ウイルスキャリアーの内視鏡検査後の洗浄・消毒の問題などが挙げられる(注2).
 HBV暴露後,少なくとも48時間以内の投与を原則とし,HBIGを筋肉注射,またHBワクチンを直後,1カ月および3カ月後に接種する.6カ月後まで毎月1回および1年後にHBs抗原・抗体を検査する.但し,上記対策が必要となるのは,被暴露者がHBs抗原・抗体をともに有していない場合を原則とする.
 暴露前の感染予防が最も望ましいので,医療従事者は両者ともに陰性の場合,ワクチン接種によりHBVに対する免疫をつくっておくことが重要である.また,手袋の使用,リキャップ時の注意により感染暴露を防止することが確実な肝炎対策である.
 HCV感染に対しては,現在確立した有効な暴露後の予防対策はない.暴露前のワクチンもなく,γグロプリンも感染防御に有効でない.HCV暴露後,HCV抗体(可能ならHCVRNAの測定が望ましい)の有無と肝機能異常の確認を行う.その後6カ月まで,毎月1回程度の肝機能とHCV抗体検査を実施する・陰性の場合でも12カ月後に再度行うと確実性が増す.
 尚,HCV感染成立後のIFN治療の適応については,未だコンセンサスが得られていない.
 最後にHBV/HCV感染事故時の対応マニュアルを表に示した.

(注1)HAVの処理について
60℃,10時間処理では全く不活化せず,80℃,10分(1M,MgC12存在下)でも感染性が保持され,100℃,5分処理で完全に不活化される.高圧滅菌,ホルマリン処理,紫外線照射,塩素処理などにより,失活し感染性を失う.従って,飲料水の加熱滅菌や,患者排泄物,衣類(特に下着)の高圧滅菌,ホルマリン処理,紫外線照射,塩素処理などを行う.
(注2)肝炎ウイルスキャリアーの内視鏡消毒について(Gastroenterol Endosc1999;41:220〜222参照)
 確実な消毒薬として,高水準殺菌スペクトルを有するアルデヒド系;グルタラール(グルタルアルデヒド)(R2〜3・5%ステリハイド,ステリゾールなど)が有効で,通常15分以上浸漬する.
但し,適用後の内視鏡に対しては,十分な水洗(リンス)が必要である.


           表 針刺し等血液事故発生時の対応マニュアル


事故発生:注射針,メス刃,血液付着など
応急処置:速やかに以下の処置を行う.

針・メス刃などによる,刺し傷や切り傷の場合は,流水下で受傷郡を搾り出すように十分洗浄する.
細菌感染防止のため,消毒用エタノール等で消毒する.
眼などに血液が飛んだ時は,多量の水による洗浄とともにポリビニールアルコール,ヨウ素剤(イソジン点眼10%希釈)による消毒を行う.
口腔粘膜などには,イソジンガーグルを使用する
無傷の場合でも,手指等が血液・体液などに触れた場合は、流水で十分に洗い,消毒用エタノールで消毒する.

★患者血がHBs抗原陽性の場合
48時間以内(24時間以内が望ましい)に診療担当医の診察を受け,抗HBs人免疫グロプリン接種およびHBワクチンの接種の必要性の有無について判断を仰ぐ.
★HCV感染事故の場合
HCV感染事故現場でまず対応すべきことは,診療担当医の診察を受け,感染血及び受傷者双方のHCV抗体,HCV−RNA(必ず感度が一番良い定性検査であること)及び血液生化学検査(肝機能)を行うことである.

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第5章 慢性肝炎の治療

    飯野 四郎
   (聖マリアンナ医科大学内科学・臨床検査医学)

 C型肝炎の治療の基本はインターフェロン(IFN)である.IFNによりウイルスが排除(約30%)されるだけではなく,ウイルスを排除できなくても肝炎の鎮静化(約30%)が期待できる.IFNがうつ病などの副作用の点から使用できない場合,IFNで肝炎の鎮静化が得られなかった場合には,肝炎を抑えることによって肝病変の進展を抑制することが示されていることから,グリチルリチン製剤,胆汁酸製剤(ウルソデオキシコール酸)などによって肝炎の鎮静化に努める.
これら療法によって肝細胞癌(HCC)への進展を抑えうる.
 B型肝炎に関しては決定的な治療法はない.
 いずれにしてもIFN投与は長期的にみてB型およびC型肝炎ウイルスによるHCCの発生率を低下させる.

1.治療選択に肝生検は必要か

 肝組織所見は炎症度と線維化度の両面から評価される.C型肝炎は進行性疾患であり,主として線維化度が予後を決定する.線維化度が血小板数,ヒアルロン酸値,γ−グロプリン量,ICG15分値などによく反映されるために,画像診断も加えれば,必ずしも肝生検を行わなくても評価が可能である.これに対して,B型肝炎では血液検査のみで肝病変の進展度を知り得ないことがあり,肝生検の必要性は高い.

2.治療に年齢は関係するか
IFNは,副作用の点で高年者(65歳以上)は不向きとも考えられるが,身体的条件,線維化度,炎症度,ウイルスの性質などを考慮してIFNの投与を行うこともあり得る.IFN以外の治療については年齢は関係ない.

3.臨床症状の有無は治療にとって重要か
 C型肝炎の場合,はとんど症状がないことから症状の有無は治療選択に関係はない.しかしB型肝炎では激しい急性増悪時に黄痘,全身倦怠感,食欲低下などの症状を伴い,緊急の対応が迫られる場合があり,また,このような症例は急速に肝病変が進展する可能性があることから,治療の必要性を強く示唆するものである.

4.治療にウイルス量を考慮するか
 C型・B型肝炎共にウイルス量が多い場合にはIFNに対する反応性は悪い.しかし,B型肝炎,C型肝炎ともIFN療法により肝炎の鎮静化も期待でき,HCC発生の抑制効果も考えられる.
したがって,高ウイルス量はIFNの適応外という考え方は好ましくない.IFN以外の治療でウイルス量は関係がない.

5.治療にウイルスの遺伝子型を考慮するか
 C型肝炎ではIFN療法の効果が遺伝子型に大きく左右される.しかし,上記のように肝炎の鎮静化まで考慮した場合には十分に意義があることから,遺伝子型に固執することは得策とは言えない.B型肝炎も遺伝子型により自然経過あるいはIFNに対する反応に差があることが知られているが,その詳細は不明である.IFN以外の治療ではウイルスの遺伝子型は関係がない.

6.小児でのIFN治療はどう考えるか
 一定の見解は得られていないが,年齢と肝炎の活動性を考慮して適用を考える.

7.肝機能正常例(GPT正常例)の対処
 基本は定期検査のみで十分である.GPTが異常となり,肝病変が進展するようになってから治療を開始する.例外的には,C型肝炎で低ウイルス量,感受性ウイルスを対象にIFN投与を行うこともあり得る.

8.急性肝炎は治療の対象となるか
IFN療法を考えた場合には,C型急性肝炎に対するIFN治療の評価は十分になされていない
が,60〜70%の例では慢性化(キャリア化)する.したがっで慢性化が予測される場合には,IFN療法も考慮される.B型肝炎に対しては本来,治癒傾向が強い疾患であり,対症療法のみが行われる.しかし,例外的にIFNを劇症肝炎で用いることがある.

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あとがき

 平成11年度に,日本肝臓学会の社会的義務の一つとして発行した「肝がん白書」と「肝がん撲滅のために」はわれわれの期待通りの反響を呼びました.
お蔭で行政をはじめマスコミ関係にも関心をよび,報道も単なる憶測によらず証拠に基づいた確かな情報を流していただけるようになりました.
企画広報委員会としては一仕事終えた感じでいましたところ,肝臓病の患者さんの団体やマスコミ関係者から次はどのような企画をたてるのか,といった問合せが多数寄せられました.
特に患者さんの団体からは医療機関で診断や治療がまちまちで,それが医療不信にも翳がる恐れがあるというご指摘をいただきました.
どこの医療機関や施設を受診しても少なくとも日本肝臓学会の中でコンセンサスが得られた診断法や治療法については患者さんにその情報を的確に伝えることが可能でなければ,学会の社会的責任を問われることになります.
そこで,企画広報委員会では,平成12年度に肝臓病を専門にしない医師のために「慢性肝炎診療のためのガイドライン」を発行することにしました.
このガイドラインに述べられていますことは,日本肝臓学会の全評議員が常識として承知していることでもあり,慢性肝炎患者さんの日常診療に携わる総ての医師に実践していただきたい内容ばかりです.
このガイドラインが総ての慢性肝炎患者さんの救いになることを日本肝臓学会は強く願っています.

日本肝臓学会企画広報委員会

委員長 沖 田  極

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