まえがき
第1章 日本の慢性肝炎の現状
第2章 慢性肝炎の診断
第3章 慢性肝炎の経過観察
第4章 肝炎ウイルスの感染予防
第5章 慢性肝炎の治療
あとがき
ま え が き 社団法人 日本肝臓学会 理事長 谷川 久一 このガイドラインは,第一線で活躍しておられる肝臓病の専門でない一般の医師の方々のために書かれたものです. |
第1章 日本の慢性肝炎の現状 吉澤 浩司 (広島大学公衆衛生学) T.C型肝炎 1.どのように広がっていったか C型肝炎ウイルス(HCV)は血液を介して感染する.HCV感染の広がりを理解するためには,まず,成人でもHCVの感染を受けると高率(60〜70%)に持続感染状態になる(キャリア化する).このことと感染源がどうであったか,感染経路がどうであったかを理解することによって,日本での流行の背景を知ることができる. わが国におけるHCV感染の流行は,1950年代から1960年代にかけて主として若い年齢層を中心に起こり,その後,徐々に終息の方向に向かい,今日に至ったと推測される. 1)感染滞としてのHCVキャリアの累積 2)様々な感染経路の存在 2.感染者数はどれくらいか 3.今後の新規感染者数の推移はどのように予測されるか
1.どのように広がっていったか 2.感染者数はどれくらいか 3.新規感染者数は |
第2章 慢性肝炎の診断 清澤 研道 田中 栄司 (信州大学第2内科) 1.ウイルス検査は何を見るか HBV持続感染者ではHBs抗原が陽性となり,通常HBc抗体が同時に陽性となる.HBe抗原・抗体の測定や血清中ウイルス量の測定(DNAポリメラーゼ,HBVDNA)は病態の把握,および治療効果の予測や判定に有用である.一般にHBe抗原陽性例ではHBVの増殖は盛んで血清中ウイルス量は多く,慢性肝炎例では肝炎の活動性は高い.HBe抗体陽性例はこの逆の傾向を示す.HBe抗体陽性で高ウイルス量を呈する場合はプレコアまたはコアプロモーター変異株による重症型の肝炎を考慮して対処する. HCV感染者のスタリーニングにはHCV抗体(第二世代または第三世代)の測定を行う.ウイルス血症の確認はHCVRNAの定性的測定により行う.この検査は,現在HCVに感染状態にあることの確認や,インターフェロン治療などの効果判定に用いられる. ウイルス量の測定や遺伝子型の判定は,C型慢性肝炎におけるインターフェロン治療効果の予測に有用である.ウイルス量は,血清中HCVRNAまたはコア蛋白を定量的に測定して判定する.遺伝子型は血清学的または遺伝子学的方法で判定する.前者はグループ1(1aと1b型)と2(2aと2b型)が判別可能である.本邦ではグループ1と判定された場合99%は1b型である.グループ2では約70%が2a型,約20%が2b型である. 2.肝機能検査の選択はどうするか AST(GOT),ALT(GPT)のトランスアミナーゼは逸脱酵素と呼ばれ,これらの上昇は肝細胞の変性・壊死を反映する.このため,慢性肝炎の診断,肝炎活動性の評価,治療効果判定などに必須である. 免疫グロプリン,または膠質反応(ZTT,TTT)の上昇は慢性肝疾患に多くみられ,特に慢性活動性肝炎や肝硬変で著明である.一時的にトランスアミナーゼが正常化する場合でも膠質反応は正常化しないので,スクリーニング検査では両者(AST・ALTとZTT・TTT)の組み合わせで慢性肝炎の見落しが減少する. 肝細胞障害で黄疸が出現する場合は一般に直接型ビリルビンが優位となる.慢性肝炎の急性増悪や肝硬変で血清ビリルビンが上昇する場合は肝不全状態を示唆する. 肝臓での蛋白合成能低下は肝細胞機能不全を鋭敏に反映する.アルブミンやコリンエステラーゼは血中半減期が長く(数週),肝硬変などによる慢性肝不全の評価に用いられる.血液凝固因子(プロトロンビン時間,等)は血中半減期が短く(数時間)リアルタイムに変化するため,慢性肝炎の急性増悪を含む急性肝不全の評価にも威力を発揮する. 色素負荷試験であるICG試験は肝実質機能および肝有効血流量を反映し,肝硬変の診断や肝切除術における切除可能範囲の決定に有用である. 3.肝線維化の指標はなにか
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第3章 慢性肝炎の経過観察 山田剛太郎 (川崎医科大学附属川崎病院肝臓病センター) 1.日常診療において進展を予測し得る指標として何を選ぶか 日常診療における慢性肝炎の進展は肝生検のステージ診断によるのが理想である.しかしながら,侵襲を伴う検査を出来るだけ減らすためには定期的な血液生化学検査と画像検査により,ステージの進展を予測する必要がある.末梢血液検査では白血球数,血小板数はステージの進展に伴って減少する.特に血小板数は段階的に減少し,線維化の進展とよく相関する.生化学検査ではAST(GOT)/ALT(GPT)比は慢性肝炎ではALT>ASTであるが,進展につれて1.0に近くなり,肝硬変ではAST>ALTと逆転する.総蛋白,アルブミンは慢性肝炎ではよく保たれるが,肝硬変では減少する.ICG15分停滞率も線維化進展の指標となる.また,線維化マーカーではヒアルロン酸,TX型コラーゲンの血中濃度が進展の予測に有用である. 2.肝硬変の良い指標は何か 慢性肝炎から肝硬変への進展の指標としては腹腔鏡下肝生検による結節形成の確認がゴールド・スタンダードであるが,日常診療では理学所見のクモ状血管腫,手掌紅鍾,女性化乳房,腹壁静脈怒張などの出現に加えて,血小板数10万以下,AST/ALT比の逆転,血清蛋白・アルブミンの減少,総コレステロールやコリンエステラーゼの減少,ICG15分停滞率25%以上,さらには線維化マーカーのTX型コラーゲンの高値,特に血清ヒアルロン酸の著明な上昇などが診断のよい指標となる.画像診断も肝硬変診断の指標として欠かすことは出来ない.腹部エコーでは肝右葉の萎縮・左葉の腫大,肝表面の不整・波打ち様凹凸不整,肝実質エコーの粗造化,肝内脈管系の狭小化,中度から高度の脾腫や門脈本幹の拡張,腹水などの所見は肝硬変への進展を示唆する.CTでも同様に肝表面の凹凸不整や右葉の萎縮・左葉の腫大などの観察や,MRIでの再生結節の出現は診断の有用な指標となる. 3.肝細胞癌のスクリーニングをどうするか 慢性肝炎,肝硬変患者では肝細胞癌の発生に備えた定期的な画像検査と腫瘍マーカーによるフォローアップが最も重要となる.特にC型慢性肝炎では線維化の進展とともに発癌率が高まり,進展に応じたスクリーニング計画が必要である.腹部エコー検査は肝細胞癌の早期発見に最も役立ち,原則としで慢性肝炎では6ヵ月毎,ハイリスクグループである肝硬変では3ヵ月毎の熟練した術者による丹念な検査が必要である. |
第4章 肝炎ウイルスの感染予防 各務 伸一 福沢 嘉孝 1.感染経路について 主なヒト肝炎ウイルスは,現在A型からE型までの5種類が知られている.A型とE型は,飲食物を介して経口感染し,B型,C型とD型は,血液や体液を介して感染する. 2.家族内感染予防について A型とE型はともに経口感染であることから,生水,生ものの摂取に十分注意するとともに,患者排泄物や衣類(特に下着)の取り扱いを厳重に注意する(注1).手洗い,うがいなどの励行に心掛ける.A型の特異的感染予防にはA型肝炎ワクチンが使用されている.E型でもHEVワクチンの開発が進められている. 事故発生:注射針,メス刃,血液付着など
★患者血がHBs抗原陽性の場合 |
第5章 慢性肝炎の治療 飯野 四郎 C型肝炎の治療の基本はインターフェロン(IFN)である.IFNによりウイルスが排除(約30%)されるだけではなく,ウイルスを排除できなくても肝炎の鎮静化(約30%)が期待できる.IFNがうつ病などの副作用の点から使用できない場合,IFNで肝炎の鎮静化が得られなかった場合には,肝炎を抑えることによって肝病変の進展を抑制することが示されていることから,グリチルリチン製剤,胆汁酸製剤(ウルソデオキシコール酸)などによって肝炎の鎮静化に努める. 1.治療選択に肝生検は必要か 肝組織所見は炎症度と線維化度の両面から評価される.C型肝炎は進行性疾患であり,主として線維化度が予後を決定する.線維化度が血小板数,ヒアルロン酸値,γ−グロプリン量,ICG15分値などによく反映されるために,画像診断も加えれば,必ずしも肝生検を行わなくても評価が可能である.これに対して,B型肝炎では血液検査のみで肝病変の進展度を知り得ないことがあり,肝生検の必要性は高い. 2.治療に年齢は関係するか 3.臨床症状の有無は治療にとって重要か 4.治療にウイルス量を考慮するか 5.治療にウイルスの遺伝子型を考慮するか 6.小児でのIFN治療はどう考えるか 7.肝機能正常例(GPT正常例)の対処 8.急性肝炎は治療の対象となるか |
平成11年度に,日本肝臓学会の社会的義務の一つとして発行した「肝がん白書」と「肝がん撲滅のために」はわれわれの期待通りの反響を呼びました. 日本肝臓学会企画広報委員会 委員長 沖 田 極 |